MCES設立に際してのご挨拶

MCESセンター長 細野 秀雄

  石器時代、鉄器時代と呼ばれるように、材料は新しい時代の創造に本質的な寄与を果たしてきました。現代社会は主としてSiとSiO2(これらは半導体と光ファイバーとしてそれぞれ使われています)によって支えられています。地球上の豊富な元素を活用して高い性能/機能を実現することは今世紀の材料科学における大きな挑戦です。地殻における豊富なトップ1,3,5の元素により構成される12CaO?7Al2O3 (C12A7)結晶の電子活性に関する開発の研究成果を基に、我々は2004年に“ユビキタス元素戦略”と称する材料研究アプローチを提案しました。C12A7は市販のアルミナセメントの主要構成成分であり、図1に掲げられるような様々な活性な機能を実現するためのプラットフォームになるとは、私自身も含め当時誰一人として考えていなかったと思います。

  図2は材料機能と構成元素との相関を表します。機能は物質の構造を介して元素と結びつきます。各元素は大きさ、電荷、電子軌道、スピンなどのような自由度により本質的な限界を持つものの、構造的要因が開発のための十分な“余地”を与えてくれます。ナノ構造、表面、界面、欠陥、異常原子価状態はこの構造要素の例です。過去20年以上にわたりナノサイエンスやナノテクノロジーに関する精力的研究が世界中で展開され、現在までに多くの重要な発展が積み重ねられてきました。ナノテクノロジーの最も興味深い点は不可能と信じられていたことを可能にするという、その高いポテンシャルです。よって、元素戦略構想(Element Strategy Initiative: ESI)はナノサイエンス、ナノテクノロジーの実践的な試みとして位置づけされます。大切なことは機能と元素との間の未知の関係を見出すことです。各元素の旧来のイメージを刷新することは我々のESIの究極のゴールとなります。

  ESIは2004年の科学技術振興機構(JST)が主催した箱根ワークショップにおいて誕生した日本発の科学技術政策です。希少元素に対する資源不安を根本的に除くためには、革新的な科学と技術を創造する研究を促進する必要があるということで、2006年に重点国家政策としてESIは取り上げられました。私たちはESIの使命が希少元素危機の解決のためのブレークスルーを導く新しい材料科学を創造することと理解しています。このゴールを達成するため、必要なことは材料科学者と先進の理論、解析、キャラクタリゼーションおよび合成に関する研究者との:特にSRリングのような最先端大型施設を扱っている人々や、材料モデルや計算のエキスパートとの強い連携です。

  元素戦略研究センター(MCES)は2つの目標を達成するために2012年に設立されました。一つは文部科学省“元素戦略プロジェクト(拠点形成型)電子材料領域”研究プロジェクトの運営であり、これは物質・材料研究機構(NIMS)、高エネルギー研究機構(KEK)との協働という私たちの提案が選定されて始まっています。もう一つは東工大すずかけ台キャンパスでの企業との共同研究を促進することです。東工大は加藤与五郎、武井武両教授によるフェライト磁石の発明や2001年のノーベル賞受賞者である白川英樹教授の導電性高分子に代表されるように、企業化された材料研究において輝かしい歴史を持っています。

  希少元素資源不安を回避するための解と材料科学の新しいフロンティアと企業化を開くブレークスルーとなる材料を生み出す、素晴らしい材料科学を作り出すことが私たちの大望です。“産業は材料科学者の道場”、金属学の父である本多光太郎の名言です。これこそMCESで私たちが探し求めるものです。

  MCES設立におけるお骨折りと活力持続のためのご支援をいただきました東工大、文部科学省、科学技術振興機構およびESIにかかわる多くの方々に深く感謝申し上げます。

図1

図1 C12A7に見いだされた機能

図2

図2 元素、構造、機能間の相関

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