東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDXセンター 北野研究室 
(MDX Research Center for Element Strategy, Institute of Integrated Reserch,
Institute of Science Tokyo, Kitano Lab
.)

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 研究内容

 研究目的: 豊富な元素を駆使した環境低負荷な触媒でカーボンニュートラルに貢献

地殻に存在する割合が少ないPt, Rh, Pdなどの貴金属は、レアメタルとして分類されています。これらの金属は、優れた性能を示す触媒となり、自動車の排気ガス浄化などで実用的に使用されています。しかし、希少な鉱物資源を持たない我が国では、希少元素の使用量をできるだけ低減させた新技術の開発が必須の課題となっています。我々は、地球上に豊富に存在する元素を駆使して新機能物質を生みだし、環境調和型触媒プロセスとりわけカーボンニュートラルな社会実現に貢献する研究を行っています。
 
ヘテロアニオンサイトが機能する新規触媒材料の開発 
 金属酸化物中の酸素(O2-)サイトの一部を窒素(N3-)、水素(H-)、電子(e-)などで置換した混合アニオン化合物のヘテロアニオンサイトを反応場として直接もしくは間接的に利用しすることで、高性能なアンモニア合成触媒を実現している。
 例えば、CeO2(酸化セリウム)とBa(NH2)2(バリウムアミド)を直接反応させることにより、ペロブスカイト型酸窒素水素化物(BaCeO3-xNyHz)の一段合成に成功した。
 このペロブスカイト型酸窒素水素化物(BaCeO3-xNyHz)はルテニウムなどの金属ナノ粒子を固定しなくても安定したアンモニア合成活性を示すことがわかった。また、BaCeO3に鉄やコバルトを固定した触媒では、ほとんどアンモニア合成活性を示さないのに対し、BaCeO3-xNyHzの表面に鉄やコバルトを固定すると、既存のルテニウム触媒よりも低温で優れたアンモニア合成活性を示すことも明らかとなった。
 さらに、Ni担持LaNをモデルとして、 N2分子の活性化をLaN等の窒化物の窒素空孔サイトで、H2分子をNi表面で別々に行うことにより、従来のRu触媒に匹敵するアンモニア合成活性を実現しました。この成果は、貴金属フリーなアンモニア合成触媒の開発の方向性を示す研究として注目されています。このように、我々の触媒は、アンモニア合成の省エネ化を実現する可能性を秘めた材料として国内外から注目されています。
 このような材料は、アンモニア合成だけでなく他の様々な触媒反応にもユニークな特性を示す。


 
関連論文
1) J. Am. Chem. Soc., 141, 20344−20353 (2019)
2) Nature, 583, 391-395 (2020)
3) J. Am. Chem. Soc., 142, 14374-14383 (2020)
4) Adv. Energy Mater., 11, 2003723 (2021)
5) J. Am. Chem. Soc., 144, 6453-6464 (2022)
6) Angew. Chem. Int. Ed., 61, e202211759 (2022)
7) J. Am. Chem. Soc., 145, 10669-10680 (2023)
8) J. Am. Chem. Soc., 145, 25976-25982 (2023)
CO2を有用化合物に変換する省エネ触媒
 カーボンニュートラルな社会実現に向けて、化学工場などから排出される二酸化炭素(CO2)の回収技術および有用化合物への変換技術が求められています。我々は、六方晶(hcp)構造を有するPdMo金属間化合物を触媒とすることで、室温でCO2を水素化しメタノールを合成できることを見いだした。 PdMo金属間化合物構造を格子中の微量の窒素が安定化させていることが材料としてユニークな点であり、室温で機能する固体触媒の例はほとんど無いことからCO2活性化のための新触媒として期待されています。






 
関連論文
1) J. Am. Chem. Soc., 145, 9410-9416 (2023)
 
窒素含有化合物の窒素空孔サイトを活性点とする貴金属フリーアンモニア分解触媒
 カーボンニュートラル社会の実現のために、化石燃料に依存した社会からクリーンな水素エネルギー社会への移行が世界中で精力的に進められています。様々な水素キャリア候補の中で、アンモニアは水素貯蔵密度が高くインフラ設備がすでに整っていることから有望ですが、アンモニアから水素を低エネルギーで取り出す有効な技術が存在しないことがボトルネック課題です。
 アンモニア分解反応では、アンモニア合成と同じく貴金属であるRuを触媒としたものが最も高い性能を示します。一方、Ni等の非貴金属を用いると、高効率にアンモニアを分解し水素を得るために非常に高い反応温度を必要とします。我々は、CaNH, BaTiO3-xNy等の窒素含有化合物をNiの担体として用いると、担体の窒素空孔サイトが活性点として機能することで、従来のNi触媒よりも100℃以上低温で作動する高性能アンモニア分解触媒を見いだしました。


 
関連論文
1) ACS Catal., 11, 11005–11015 (2021)
2) Adv. Energy Mater., 13, 2301286 (2023)

 無機エレクトライドを触媒として利用したアンモニア合成 
 窒素と水素の反応によって合成されるアンモニアは人類が最も多く生産する化学薬品の一つであり、約100年前にハーバー・ボッシュ法(HB法)によってアンモニアの大量生産方法が確立された。現在、その生産量は全世界で年間1.7億トンを越える勢いで増え続けている。この発明によって,食料生産に欠かせない化学肥料(窒素肥料)を十分に供給できるようになり、70億を超える人口が支えられている。さらに、アンモニア分子は10気圧,室温で液化が可能であり、その体積密度は液体水素の1.5倍であることから貯蔵・運搬が容易な 水素キャリアとしても近年注目されている。HB法では、200-400気圧、400-600℃という条件下で鉄を主体とした触媒によりアンモニアが合成されており、多大なエネルギーを必要とするプロセスとなっているため、エネルギー消費を抑えてアンモニアを生産することは重要な課題となっている。
 このような背景の中、我々は新材料12CaO·7Al2O3エレクトライド(C12A7:e–)をベースにした触媒を創出することにより、低環境負荷アンモニア生産に至る新たなルートを見出した。安定な無機酸化物でありながら金属カリウムに匹敵する低い仕事関数を有するC12A7:e–にRuナノ粒子を固定した材料(Ru/C12A7:e–)は、強力な電子注入によってN2分子を効率よく解離することが可能であり、従来の触媒に対して1桁上のアンモニア生成速度と1/2の活性化エネルギーを達成する触媒として働く。さらにこの触媒はRu触媒の最大の欠点である水素被毒を抑制できるため、加圧下でも効率よくアンモニアを合成できる。 さらに、Ca2Nエレクトライドは、電子と水素の交換がC12A7:e–よりも低温で起こりやすく、より低温でのアンモニア合成反応に有用であることも見いだした。 
 
関連論文 
1) Nature Chemistry, 4, 934 (2012)
2) Chemal Science, 4, 3124 (2013)
3) ACS Catalysis, 4, 674 (2014)
4) Nature Communications, 6, 6731 (2015)
5) J. Am. Chem. Soc., 137, 14517 (2015)
6) Chem. Sci. 7, 4036 (2016)
7) ACS Catal. 6, 7577 (2016)
8) Angew. Chem. Int. Ed. 57, 2648 (2018).
9) Chem. Rev. 121, 3121-3185 (2021).
 
C12A7を担体として利用した水素化触媒の開発
 12CaO·7Al2O3エレクトライド(C12A7:e–)は、高い電子供与性と水素をH-イオンとしてケージ内に取り込む水素吸蔵特性を有している。このC12A7:e–とさまざまな金属ナノ粒子触媒を組み合わせることで新規水素化触媒を創製することを検討している。
 たとえば、電子供与効果の高いC12A7:e–の表面にRuとFeの合金ナノ粒子を担持すると不飽和アルデヒドから不飽和アルコールへの選択水素化反応に高い触媒活性および選択性を示すことを見いだした。この反応は、返納溶液中に塩基を添加すると選択性が向上することが知られているが、本触媒系では、塩基の添加は必要なく、C12A7:e–の電子供与効果によって選択性が著しく向上する。
 
 関連論文  
1) Chem. Sci. 7, 5969-5975 (2016).  
2) Green Chem. 19, 749-756 (2017).
3) Nat. Commun. 11, 1020 (2020).  
   
溶媒和電子を還元剤に利用した合金ナノ粒子触媒の合成  
 担持金属ナノ粒子触媒は、表面に配位不飽和なサイトを数多く有し、優れた触媒性能を示す。2種類以上の金属ナノ粒子を合金化すると、触媒表面の原子配列が変化することによって生じるアンサンブル効果や異種金属原子間の電子的相互作用によって生じるリガンド効果によって、単独の金属ナノ粒子触媒では得られない触媒活性、反応選択性を示すようになる。
 合金ナノ粒子触媒の研究は、数多く存在するが白金族などの貴金属をベースにしたものが多い。卑金属を含む均一な合金なの粒子を合成するには、還元力の高い還元剤を使用する必要がある。
 我々は、金属ナトリウムなどのアルカリ金属とナフタレンをTHFなどに溶解させたときに生じるSodium naphthalenideが高い還元能力を有することに着目し、これを用いた液相還元法により、合金ナノ粒子を合成した。
 例として、粒径約4nm程度のCo-Mo合金ナノ粒子をCeO2上に担持した触媒を合成し、アンモニア合成活性を測定した。得られた触媒は、CoのみMoのみを担持したものよりもはるかに高い触媒活性を示し、既報のCo3Mo3Nよりも高い触媒性能を示した。
 
 関連論文 
1) Chem Commun.,52, 14369-14372 (2016).
2) J. Catal.,364, 31-39 (2018).
 
チタン酸ナノチューブ固体酸触媒 
 酸触媒は、燃料、繊維、樹脂、医薬品などわれわれの生活に必要不可欠な化学製品の合成に利用されており、環境調和の観点から生成物との分離が容易であり、繰り返し使用が可能な固体酸触媒の開発が求められている。二酸化チタン(TiO2)は、安定安価であり地球上に豊富に存在する物質であるが、固体酸触媒としては強い酸点を有していないことが知られている。
 我々は、酸化チタンを濃アルカリ水溶液中で加熱することで得られるチタン酸ナノチューブが、強い酸点を持つ固体酸触媒として機能することを見いだした。この材料をフリーデルクラフツアルキル化反応に用いると、TiO2やナノシート状のチタン酸化物ではほとんど反応は進行しないが、チタン酸ナノチューブは効率よくこの反応を進行させる。このように、同じTiとOから構成される物質であるが、ナノ構造を制御することで酸触媒としての機能を著しく向上することを明らかにした。
 
 関連論文 
1) J. Am. Chem. Soc., 132, 6622 (2010)
2) Chem. Mater., 25, 385 (2013)
3) J. Mater. Chem. A, 1, 12768 (2013)
4) Catal. Sci. Technol. 6, 4832 (2016)