Tokyo Institute of Technology 東京工業大学 Materials and Structures Labratory 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 Department of Materials Science & Engineering 大学院総合理工学研究科 材料物理科学専攻 Department of Innovative and Engineered Materials 大学院総合理工学研究科 物質科学創造専攻 Materials Research center for Element Strategy 元素戦略研究センター 物質理工学院 細野・神谷・平松研究室 |
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膨大な数の「物質」の中で、人間の社会に直接に役に立つものが「材料」です。私たち研究室は、自分たちが打ちたてた材料設計指針をもとに、以下のような新しい材料を開発しています。
材料研究はしばしば、すでにある材料の開発に終始してしまいがちですが、これまでに作り出された画期的な新材料−ナイロン、カーボンファイバーや高温超伝導体など−は、そのような改良研究からは決して生まれません。物質の内部で何が起こっているかをしっかり調べ理解すると同時に、他人とは違った発想とアプローチで研究をする必要があります。
私たちが目的としているのは、このような独自のアプローチにより新しい物質と機能を創り出し、それらを人の役に立つ「材料」へと進化させることです。Nature誌やScience誌などの世界トップの学術誌に掲載される研究成果をあげ、企業と連携し産業化するとともに、その実践研究の過程で「真の材料研究」のセンスをもつ学生を育てることを理想としています。
図1. 透明電子活性の樹(こんな具合に育って欲しいという図)
酸化物は、その構成元素が資源的に豊富で、かつ環境調和性に優れたものが多くあり、古くから陶磁器やガラスとして人類の発展を支えてきた材料です。それにもかかわらず、酸化物中で電子が主役を演ずる機能は、以前は殆ど見出されていませんでした。これは酸化物の本質によるものではありません。私たちは、酸化物結晶に内在する特徴的なナノ構造に着目し、その電子状態や欠陥構造を制御・活用することで、新しい光・電子および化学機能をもつ材料を創り出すことを目指しています。ただ試料を作るだけではなく、計算と実験の両面から電子状態を調べて物質のイメージを作り、研究方法を考えています。独自の視点からのアイデアに基づいたアプローチで、世界で「初めての」、「最高の」、あるいは「唯一の」結果を出せるよう、研究を進めています。
教 授: 細野秀雄 (光材料、電子物性、磁気共鳴)
准教授: 神谷利夫 (計算材料設計、半導体薄膜、電子デバイス)
助 手: 柳 博 (固体電子物性、物質探索)
学 生: 博士課程 8名、修士課程 10名、学部4年生 2名
プロジェクト:科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業
「細野透明電子活性プロジェクト」
(期間:2004.10~2009.9、博士研究員11
名)と緊密な連携をしています。
スタッフ: 細野
(光材料、電子物性、磁気共鳴)
神谷
(計算材料設計、半導体薄膜、電子デバイス)
平野正浩COE特任教授 (光物性、固体物理)
林克郎セキュアセンター准教授 (固体化学)
柳博助手 (固体電子物性、物質探索)
松石聡フロンティア研助手(物質探索、構造・物性解析)
学 生: 博士課程 7名、修士課程11名、学部4年生 2名
プロジェクト:
現在、次の3つのプロジェクトを通して研究を進めています。
(i) 科学技術振興機構 戦略的創造研究継続研究 (ERATO-SORST)(期間:2004.10~2009.9)
(ii) 科学研究費学術創成研究 (期間:2004.4~2009.3)
(iii) 21世紀COE (期間:2002.4 ~2007.3)、材料系拠点リーダー
これらのプロジェクトでは博士研究員11名が活躍しており、研究室学生と緊密な連携をして研究をしています。
領域にとらわれずに世界で活躍できる一流の研究者を育てるため、実施研究と輪講を中心とした方針を採っています。最先端の設備を自由に使える環境の中で、個々の学生が高い独立性を持って研究をするとともに、テーマの異なる学生・職員間でも忌憚のない自由な議論、情報交換をすることを重要視しています。
優れた成果が得られれば、学生自身が国際学会へ参加したり一流国際学術誌に論文を書いたりしています。
2003年には修士1年の新入生が2週間の米国大学滞在をして刺激を受けて帰ってきました。特に、博士課程の学生は、最低年1回の海外での国際学会発表をし、国際舞台と英語のプレゼンテーションになれるようにしています。
また、学生の研究成果が 評価され、以下のような表彰を受けています(過去6年間)。この中には、修士1年の時に出した成果も含まれています。
★ 日本学術振興会 特別研究員
(DC) 2006年 2名 2005年 2名 2004年 1名
★ 学生の受賞
2006年 D1 松崎君 COE奨励賞
OB 松石氏 井上研究奨励賞(博士論文賞)
OB 松石氏 手島記念博士論文賞
2005年 D3 斉藤君 応用物理学会講演奨励賞
M2 松崎君 TOEO-4 The Best Poster Award
OB 野村氏 手島記念博士論文賞
OB 平松氏 井上研究奨励賞(博士論文賞)
2004年 D3 野村君 MRS Graduate Student Award (Gold)
D3 松石君 先端技術大賞ニッポン放送賞
★ 学生の国際会議発表・海外渡航
2006年 D2 金 君 IMID2006 (大邱、韓国)
D2 金 君 WOE13 (イスキア、イタリア)
D1 松崎君 WOE13 (イスキア、イタリア)
M2 野村君 E-MRS (ニース、フランス)
他 1件
2005年 D3 斉藤君 ICL'05 (北京、中国)
D2 戸田君 MRS (サンフランシスコ、アメリカ)
M2 松崎君 PacRim6 (ハワイ、アメリカ)
他 4件 (修士学生の2件含む)
2004年 D1 本光君 MRS (ボストン、アメリカ)
D1 戸田君 MRS (サンフランシスコ、アメリカ)
他 3件 (修士学生の2件を含む)
※ その他、学生が筆頭著者の論文がNature誌やScience誌にも掲載されています! ニュース 論文など
当研究室が1997年に世界で初めて、透明酸化物でP型伝導性を持つ物質の設計法と具体例をNature誌に 報告して以来、透明酸化物エレクトロニクスという新しいフロンティアが拓けつつあります。実際に、 紫外発光ダイオード、高性能透明薄膜トランジスタ(TFT)、室温で作製したアモルファス酸化物p/n接合などを開発し、 透明酸化物半導体が高い潜在能力を持つことを実証してきました。
2004年には、酸化物半導体が持つ優れた特徴 −室温で作製したアモルファス膜で、アモルファスシリコンや有機半導体よりも一桁以上高い特性を持つ− という特長を活かした、フレキシブル透明TFTを実現しました。このTFTは、10cm2/Vsという フレキシブルTFTでは世界でトップの性能を示し、Nature誌(2004年11月)にも掲載され、大変な反響を得ています。現在、企業との共同研究によって実用化を目指しています。
さらに、原子レベルから見直してみると、酸化物が持つ独特の特徴はその結晶構造にあることがわかります。 混合価数イオンの共存、長距離力であるクーロン力と共有結合性、この両者が絶妙なバランスを実現すると、 ナノメートルサイズの超構造を自然に形成する材料が得られます。このような超構造をうまく利用すれば、 量子効果などを利用したデバイスを自己組織化的に形成できると考えています。
図2. (左) 高性能透明TFT。多結晶シリコン並みの特性を示す。(中央)
プラスチック上に作製したフレキシブルTFTを曲げて測定しているところ。アモルファスシリコンや有機TFTより一桁以上高い特性を示す。(右)凸版印刷が試作したフレキシブル電子ペーパー
これまで、酸化物の多様な機能は遷移金属や希土類イオンなど陽イオンを変えることで実現してきました。私たちは発想を変え、陰イオンの状態を制御することで新しい可能性が拓けないか、という視点からアプローチをしています。
12CaO・7Al2O3 (C12A7)は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムというありふれた酸化物から構成されている、何の変哲もない物質と考えられてきました。ところが、原子レベルで結晶構造を見直してみると、陰イオン(通常はO2-イオン)を包接できるナノ籠構造を持っていることがわかります(図3左)。合成法を工夫することで、ナノ籠構造中に様々なイオンを包接させることができます。例えば、空気中では不安定ですが最強の酸化力を持つことで知られるO-イオンを、1020cm-3以上の高濃度で安定に含有させて、最も安定な白金さえ容易に酸化できました。また、C12A7は典型的な絶縁体であると信じられていましたが、H-イオンを包接させて紫外光や電子線を照射することで、透明で電子がよく流れる状態に変えることに成功しました。さらには、電子を包接させることで、世界初の室温で安定なエレクトライドC12A7:e-を実現し、電界放射型ディスプレイ(図3右下)、電界効果型トランジスタや有機発光ディスプレイなどへ応用できることを実証しました。
このように、ありふれた原料だけから構成される材料でも、ナノ構造を巧く利用することにより、多彩な電子・光・化学機能をひきだすことができます。このアイデアを追及していくことで、深刻化している環境・エネルギー問題の解決に大きく寄与できるスーパーセラミックスが誕生すると期待しています。
図3. (左)エレクトライドC12A7:e- の結晶構造と電子分布。(中央) ナノ籠構造 (籠の内径は~4A)。
(右上) 電子が生成する様子が色の変化でわかる。(右下) 電界放射型発光デバイス。
図4. (挿入図) 層状混合アニオン化合物の結晶構造。 (図) LaFeOPの超伝導転移。
図5. (左)
バナジルフタロシアニン有機エピタキシャル薄膜の構造模式図。
(中) 試作した有機発光デバイス。(右)
電気測定チャンバーと紫外/X線光電子分光測定チャンバーを持つハイブリッド有機デバイス作製装置。
図6. (左) たった2発のレーザーパルスで書き込んだマイクロ・ナノ構造。(右) LiF結晶中に作製した
DFBレーザーが発振している様子。
コンピュータのCPUやメモリーの高集積化がすさまじい勢いで進んでいますが、将来もIT技術が発展し 続けるためには、波長が157nmという、極短波長のフッ素分子レーザーを光源とする微細加工が不可欠になります。 ところが、これに耐えられる適当な光学材料がなく、研究が滞っていました。私たちは1999年に、 フッ素ドープしたシリカガラスがこの仕様に耐えることを見出しました。これは今では“modified SiO2” の名前で知られており、これを用いたフォトリソグラフマスク用ガラスと、190nmの短波長まで透明で レーザー損傷耐性の優れた光ファイバーを初めて実現し、実用化に成功しました。現在は、極短波長光透過性と 電子活性という透明酸化物ならではの特長を活かし、バイオテクノロジー分野への展開を進めています。
図7. 実用化された深紫外ファイバー(応用物理学会誌広告)
また、ガラスのような透明材料は、光通信でも重要な役割を担っています。光通信に不可欠なファイバーアンプは、Er3+イオンの蛍光を利用したものでEDFAと呼ばれています。基本はEr3+をシリカガラスにドープしたものですが、微量のAlやPが共添加されていないとよく発光しません。この共添加効果が、優れたEDFA材料を開発する鍵なのですが、これまで、その役割は不明でした。
私たちはパルスESRを駆使して、その役割を20年ぶりに解明しました。その結果、現在使われているAlよりもPの方が、Er3+イオンのまわりに選択的に配位するということがわかり、すでにこの知見を応用してより優れた特性を報告する研究が他のグループによってなされています。このような波及効果の大きな研究を目指しています
図8.
光通信用ファイバーアンプ材料中の発光イオンの環境をパルスESRで解明しました。
やみくもに実験をしていても、新しい機能・材料を見つけることはほとんど不可能です。私たちは、パルス電子スピン共鳴法(図8)、正・逆光電子分光法(図9)、やX線回折法などを用いて、物質や欠陥の電子状態を直接的に実験で観察しています。さらに第一原理計算を併用することで物質のイメージを作り、物質探索や材料設計の指針をたてて開拓研究を進めています。図10は、C12A7の中でかご構造のひずみをX線構造解析と第一原理計算で調べた結果です。C12A7中の電子数が増えるにしたがってかごの形がきれいになり、電子の通り道である波動関数が拡がっていく様子が見えます。
図9. 物質の電子構造を観察する正・逆光電子分光装置。
図10. (左端、右から2番目の図) MEM/Rietveld解析で観測した電子密度。左のかご構造は
酸素イオンが入っているためにひずんでいる。(左から2番目、右の図)
第一原理計算で求めたかご構造のひずみと電子密度。電子数が多くなってかごの形がきれいになると、波動関数が結晶全体に拡がる(右図)。