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国立大学法人 東京工業大学 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センター International Research Frontiers Initiative (IRFI) MDX Research Center for Element Strategy (MDXES)
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2023.09.26 トポロジカル絶縁体を触媒として有機尿素類を室温で高収率合成

研究トピックス

2023.09.26 トポロジカル絶縁体を触媒として有機尿素類を室温で高収率合成


当センターの
細野秀雄栄誉教授、李江特任助教、多田朋史特定教授、北野政明教授らは、トポロジカル絶縁体であるBi2Se3を触媒として用いることで、一酸化炭素と酸素と有機アミンから、有機尿素を室温で高い収率で合成することに成功した。有機尿素類は、尿素と異なり水にすぐに溶解せず、土壌中の微生物によって徐々に分解され、植物が吸収できる活性窒素に変わるので、窒素肥料として広く使われている尿素の欠点を補う性質があることが知られている。

本研究グループは、トポロジカル物質のユニークな物性である表面が極めて丈夫であることと、その起源となっている構成金属元素の大きなスピン軌道相互作用に注目した。そしてトポロジカル絶縁体としてよく知られているBi2Se3を選択し、そのナノ粒子を作製して、有機尿素類の合成反応の触媒として検討した。その結果、室温でほぼ100%という高い収率で、有機尿素類が得られることを見出した。酸素分子による酸化を伴う反応であるにもかかわらず、ナノ粒子の表面は安定で反応を繰り返し行っても活性の低下は認められなかった。この表面の丈夫さはトポロジカル物質の特性によるものだと考えられる。その反応メカニズムを検討したところ、Bi(ビスマス)とSe(セレン)の両方の元素が表面を構成する(015)面で反応が進行し、酸素分子がBiと結合して、酸素力の強い一重項状態が安定化されて、酸素原子に速やかに解離し、生成した原子状酸素がSeに結合したアミン分子から水素を引き抜き、生じたイミン中間体と一酸化炭素との反応を促進することが分かった。Biのスピン軌道相互作用を考慮しない計算では、酸素分子は通常の三重項状態のままで、

酸素分子の解離は生じなかった。スピン軌道相互作用によって生じた局所的な磁場で酸素分子のスピン状態の変化が生じることが、反応のエネルギー障壁を大きく下げたと理解される。すなわち、トポロジカル物質のユニークな特徴とBiとSeというこの反応に有利な元素選択によって得られた成果と言える。

本グループは2012年に、電子がアニオンとして働くエレクトライド(電子化物)を用いて、温和な条件下でアンモニア合成が可能なことを報告した。今回の成果もこの延長線上にあり、量子物質の化学反応への展開の更なる可能性を示唆している。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業において得られたものであり、米科学誌「Science」の姉妹誌「Science Advances」に9月23日、オンライン公開された。

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